小説の題名 第3章

翌日、加藤はいつも通りの道を行き、いつも通り授業をこなし、いつも通り昼を迎えた。そうだ、これが俺の日常。昨日が異常だっただけ。ただ、ツキが無かっただけだ。六限目も終わり、帰りのホームルームを迎えた。起立、気をつけ、礼、サヨウナラ。

そんな今日の『通常』もツキに見放された。校舎から出て数分たっただろうか。雨が降ってきた。でもそんなに強くも無く、粒も小さいので大丈夫だろうと思っていた。しかし、駅に着いた頃に本格的に大降りへと変わっていた。昨日結局降らずに終わった雨が今日に持ち越しになったような、土砂降り。加藤は天を仰いだ。そして、思った。

―――ツキは、まだ俺を嫌っているのか。

 

とりあえず加藤は自分の駅へと向かった。到着すると電車から降り、ホームから改札へ歩いていく。途中、切符売り場で雨に濡れて服が変色している人とすれ違った。雨で濡れた靴と駅の床の音が接触する共鳴音のようなものが辺りに響いている。まだ雨が強いのだろう。そう悟った加藤は小さなため息をついた。

 

「どうするかな…」

独り言を呟く。雨の中突っ込んで家まで帰る、だなんて小学生の考えだ。かといって雨が止むのをずっと待っていたのではいつ帰れるかなんて分からない。これがもし学校から降りだしてくれたなら誰かの置き傘を借りていけばいいだけなのに。全く、雨もタイミングってやつを知らない。迷ったあげく加藤は日課に従う事にした。コンビニまでだったらそれほどまで濡れないし、暇つぶしにもなる。止まないのであれば面倒だけれどビニール傘を買えばいい話だ。加藤は階段の一段一段をゆっくりと降り、地上へと向かった。

 

階段付近のアスファルトは屋根があるせいで濡れていなかったが、すぐ先にあるものはどす黒く染まっていた。雨足の強さを実際に見ると、正直怖気づいてしまった。近くにあるはずのコンビニは霞んで見える。止むまでもう少し待ってみるか。

 

ふと、天井を見上げると鳥の巣があるのを見つけた。雨音にかき消されて気づかなかったが、何匹かヒナの鳴き声がする。きっと、腹を空かせて親鳥を呼んでいるのだろう。でもこの大雨じゃ帰ってくるに来られない。かといって自分でエサを取りにいけるはずも無い。このヒナ達はただ、いつになるか分からない親の帰宅を待つ事しかできないのだ。もしかしたら帰って来ないかもしれない、親の帰宅を。ヒナのなき声に聞き入りながら、加藤はじっと、巣の中のヒナを見つめていた。

 

急になき声しか聞こえなかった世界が一転して、雨音の世界に変わる。誰かが肩に手をやっているのに気づいたからだ。その手の先の方へ恐る恐る首を動かす。加藤と目が合うと手の主は口元を緩ませ

「びっくりした?」

と尋ねてくる。

「何だよ、長瀬か」

 

苦笑交じりに、加藤は言った。内心、加藤はホッとしていた。

「何してるの?」

「別に何も。雨宿りしてただけだよ」

そう言いながら加藤は辺りを見渡すと、先ほどより人が増えている事に気づいた。そこまで真剣に見ていたのか、と自分に気恥ずかしさを覚えた加藤は、会話を続ける。

 

「長瀬こそ、何でここにいるんだよ」

「何でって、いつもここの駅を使ってるから」

「そうじゃなくて。部活は?」

「テスト前だから部活はお休み」

「ああ、なるほどね…」

「それより加藤君、勉強してるの?」

何でそんな事聞いて来るんだ、と思ったがとりあえず、続けた。