「Nancy・早川・Willis」。彼女は今、転校生の宿命に追われていた。自分の机の周りを生徒に囲まれ色々な質問をぶつけられる「アレ」だ。
「ねーねー、早川さんってハーフなんだよね?どっちが日本人なの?」
「お母さんが日本人。お父さんはイギリス人」
「今はどこに住んでるの?」
「今は…三浦のマンションに暮らしてるよ」
「えー、じゃあ私の家の近くじゃん!」
「って言うかさ、ミドルネームって言うんだっけ?カッコイイよねー」
俺とは反対方向の席に座った彼女は一つ一つの話を丁寧に答えていた。しかし、彼女とクラスの女子のやり取りが、俺にはテレビ番組で見かけるリポーターと回答者のように見えた。興味本位で聞くリポーターと、笑顔で返す回答者。その笑顔はどこか辛そうな気がして、現に彼女の両手は緊張しているのか、膝の上で肘も曲げずに真っ直ぐ伸びていた。
「なーに見てんだよ」
急に後ろからのしかかってきた中川は、馬鹿にしたような笑顔を向けていた。
「べ、別に何も見てねえって」
「ずーっと視線がナンシーちゃんの方を向いてましたよー、ショーくーん?」
「そ、そんなワケ…」
と、否定したのだが、次第に紅潮していく顔は正直で、それ以上何も言い返すことはできなかった。
「お前はどうなんだよ、あの子は興味ねえの?」
「あー、俺は年上好みだから。確かにかわいいけど…なんか違うんだよ」
先ほどからの笑みを続けていた中川だったが、急に遠くを見るような目を彼女に向け始め、俺には中川の雰囲気が変わっていくように思えた。
「でもさ…何か、かわいそうだよな、ナンシーちゃん」
えっ、と俺が言うと、中川は続けた。
「だってさ、転校生って色々ワケありじゃん?なのにあんなに質問ばっかされてちゃ、そりゃあ、かわいそうって思うよ。興味津々な事にはとことん追求するって言うあいつらの悪い癖だよな」
ふうん、とそっけないように返したが、内心、俺も同じような事を考えていた。さんざん盛り上げてヒーローに祭り上げ、飽きたら捨てる。中学生、いや、世間はそんなもんだ。普通の転校生では無く、ハーフであるという話題性を持つ彼女も、興味本位という言葉で過剰に祭り上げられるだろう。少なからずとも、彼女は心無い言葉に傷つくかもしれない。
それを考えるだけで胸は締め付けられるようになるのだけれど、それは俺の「何か行動を起こす」という考えさえも締め付けてしまっていた。