中川に悟られないよう、俺は未だに質問責めにあっている彼女を見ながら心の中でため息をついた。
「お前、考え方が大人なんだな、意外に」
「じゃあ大人な中川君がショー君に恋のレクチャーをしてあげましょうか?」
「ふざけんな」
そういうと俺は中川に右のボディーブローを食らわせ、もがく姿をケラケラと笑ってやった。
そしてそのまま学校の授業も終わり、放課後になった。テニス部に所属している俺はいつもの通り中川と一緒にテニスコートへと向かった。テニスコートへは正門を抜けてすぐ左手にある。俺はコートを見た途端に、自分のラケットが無い事に気づいた。
「あ、悪い中川、ラケット忘れたわ。先行っててくれ」
「あいよ」
「ついでにカバンだけはよろしくな」
俺は中川にカバンを投げ渡し、教室へと戻った。ちなみに今日の俺のカバンはテスト前だから教科書の宝庫なはずだ。
靴を脱ぎ捨て、階段を2段飛ばしで駆け走り、3階に到着。そして小走りで教室へと戻った。もしやと思い、教室には恐る恐る入っていったのだが、誰もいないとわかった時には気が抜けてしまった。いや、少し残念だった、の方が正しいのかもしれない。
俺は同じ手順で昇降口まで戻っていった。まだ4時前。部活の開始時間にはまだ早い。
もう少しゆっくり行こう、と自分の足にリミッターをかけた。
外靴に履き替えているべく、座りながらかかとを合わせていると、途端に今日出会った彼女の姿が浮かび上がってきた。今だけじゃない。今日だけでももう何回もこんな現象が俺の脳内で起きていた。妄想と言ってしまえばオシマイだけど、なぜか彼女が脳内でリピートされ続けていて、停止ボタンが見つからないのだ。かろうじて見つけたのは一時停止ボタンだったのだけれど、決まってそれを押した場面はあの「笑顔」だった。するとまたあの感情がリピートされ、彼女に対する感情はリピートの繰り返しのせいでどんどん肥大化していく一方であった。
別の事を考えれば止まるんじゃないかと言う対抗策を引っさげ、俺はテニスコートへと戻ろうとした。ちょうど中庭の手前にある大樹の付近を歩いていると、俺は自分で自分を一時停止させた。脳内から返答を求めても一時停止は止まらない。動かないんじゃなくて、
”動けない”。
その映像は妄想なんかじゃなく、一時停止も早送りも巻き戻しもできない「彼女自身」であった。