彼女は職員室の担任に用があったらしく、俺は職員室の外で待機していた。ここから見る限りじゃあと数分は続くはずだ。時計の針を見て、ふう、とため息をつく。
別にこの展開に持ち込んだ俺を悔やんではいない。むしろ、良くやったと思う。ため息の理由はただ一つ。
―――自分の経験不足を悔やんでいるからだ。
彼女が用事を済ませたとして、俺はその後どうすべきか。一番簡単なのはそのまま別れる事に違いない。だってこれ以上悩まなくてすむし、楽だから。
でも、それで良いワケがない、と心の奥底で自分がいる気がした。それに、朝から続いているこの妙な感じが未だに引っかかる。
そうなれば、答えは1つ。
俺は、数分前の俺の気持ちを取り戻すべく、心の巻き戻しを始めた。
彼女は室内から出てくると俺を見つけてくれて、歩み寄ってきた。そして、ありがとう、と会釈しながら言った。俺はまた笑みで返す。いや、言葉で返せなかったのだ。
「あ、あのさ」
俺は高鳴る心臓音と共に、待ち時間で作った台詞を棒読みにならないよう、あくまでも自然な感じで言おうとした。
「早川はこれからどうするの?」
「とりあえず、学校を見て回りたいかな。全部見たわけじゃないから」
「じゃあさ」
手汗でぐっしょり濡れている手を握り締めて言った。
「俺が、案内しようか。学校」
言えた―――。
全身から吹き出る汗と、緊張して振るえる手足をしながら、早川の返答を待った。思考のポーズはせず、早川は首で頷きながら答えた。
「うん。じゃあまたお願いするね」
たぶん、今の俺には何でもできるんじゃないか、と錯覚していた。
空だって飛べそうだし、このまま時間だって止められるし、この気持ちのまま死ぬ事だって、何でもできると思った。