精神状態錯乱のその状態でまともな案内が出来るかというと、答えは、ノー。でも、この原因は早川であって、情緒不安定なのは副作用のようなものなのだ。
そしてこの感覚は不思議なほど気持ちよくて、とても心地良かった。
とりあえず俺は先頭に立って、早川と一緒に校舎内を一回りして簡単な説明をした。そしてB棟から出ると、まず校庭を、次に中庭に向かった。
「ホントに広いんだね、この学校」
中庭のちょうど真ん中に差し掛かった頃、早川が呟いた。俺は頷いた。
「俺もさ、入ったばっかりの頃は迷ってばっかりで。授業に何度遅刻したか覚えてないよ」
ふと後ろを見ると早川はクスクスと笑っていた。無性に背中がむず痒くなって、前を向きなおした。
「でもこの学校、そんなに悪いにもんじゃないよ。ある程度のものは揃ってるし、先生もうるさくないし、クラスの奴はいい奴だし」
中央の大樹に到着し、俺が説明をしようとクルッと一回転した。早川は俺のすぐ後ろにいると思っていたが、4、5メートルくらい離れた所で独りうつむきながら、立っていた。
「早川…?」
俺の言葉に気づいたのか早川は顔をあげ、ゆっくりと近づいてくる。ごめんね、と一言添えて、俺の横に到達したのを確認した後、俺は、座ろうか、と言いながら大樹の下に座り込んだ。
「ごめん、疲れた?」
早川が俺の目線に合わせ座ると、ううん、と首を横に振った。
「楽しかったよ、学校案内」
「そっか」
大樹は木漏れ日が眩しいながらも、葉の揺れる音がいっそう影と風の清涼感を感じさせ、心地良い、とはまさにこの事だな、と思わせてくれる。本当に、時間を止められるリモコンがあるのなら、この時間を停止させたい。一時停止じゃなくて普通の停止でもなくて、
“永久停止”のボタンを押してやりたい。
「わたし」
まっすぐ正面を見ていた早川が、ふと呟いた。
「わたし、イギリス人と日本人のハーフなの。見た目が違うから、分かるかもしれないけど。それでね、日本人のお母さんが病気になっちゃって少し前からこっちに来たの」
彼女が話すのを、俺は横顔を見ながら聞いていた。