「日本語はお母さんに習ってて、すぐに喋れる様になった。日本にもすぐに慣れた。日本の学校も、最初は戸惑ったけど皆が優しくしてくれたの。でもね、ちょっと不安なんだ」
「不安?」
「皆と違うからわたしが浮いてそうで不安なの。皆と同じ服を着てても、同じ物を食べても、同じ言葉を話しても、やっぱり違う。それに転校なんて前の学校が始めてだったし」
早川は大きく息を吸い込むと空に向かって息をゆっくりと吐いた。
「上手くやっていけるかな、なんて思うともっと不安になっちゃって。あれだよね、これが負の連鎖、って事なのかな?」
空を仰いだ空気は気流を探せずに留まっていた。息苦しい空気が喉元を伝う。
俺は大きく息を吸って、空に吐いた。別に彼女の真似をしたワケでは無い。ただ、気流を作っただけ。
「皆と違うって事は良い事だよ。少なくとも、俺はそう思う」
疑問符が浮かんでいる早川の顔を見ながら、続けた。
「だって、オシャレしても誰ともかぶらないだろうし、誰も知らないような食べ物を食べる事があるだろうし、皆が知らないような日本語を知れるかもしれない。人間が皆同じ顔、同じ性格、同じ考え方だったらつまらないじゃんか。」
一通り言い終えた後、早川との間に静寂の時間が流れた。次の言葉を捜そうとするが、俺の言いたい事は全て言い尽くしてしまった。
「あははっ」
笑っている。早川が。
「じょーだんだよ、じょーだん」
「じ、冗談?」
それから少しの間、早川は笑い続けた。俺は状況を飲み込もうと頭の中で必死に理解させようとしたのだけれど、そのままワケがわからなくなってしまった。
「わたしなら大丈夫。そんなにムキにならないでいいよ」
早川の表情に――ほんの少しだけど不安を覚えた。
ホントに?と聞くと首を縦に頷かせる。俺はそれ以上の追及はしなかった。